キリの倉庫。

暇だけど暇じゃない。でも暇人、な奴の倉庫。

The die is cast.

買い物帰りに見知らぬ女に襲撃されたのが1時間前。

自分の村の異変に気付いたのが20分前。

初めて剣で「何か」を斬ったのが、

 

 

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「・・・!?」

今、確かに俺は敵を斬ったはずだった。

しかし手ごたえが無い。いや、途中まであったのだ。剣が敵の皮膚を斬っている途中で、それは消えた。

「うお!?」

勢い余って体が前のめる。剣はとっさの判断で手放した。

「ぐえっ」

そのままバフン、と倒れる。起きて見れば、さっきまで戦っていた相手が着ていた服が自分の下敷きになっていた。

「よー、終わったー?」

間延びした声でアリアが近づいてきた。あっちも片付いたようだ。

「終わっ・・・たのか?なんか、消えたんだけど・・・。敵。」

「あーうんうんおつかれー。そういうもんなんだよ。まあ知らなければ動揺するよな。」

えーと、と言いながらアリアが敵の着ていた服を持ち上げると、カラン、と何かが服の中から落ちてきた。

「・・・十字架?」

「そうだな。・・・お、これ結構凝った作りだな。いい路銀になる。」

「・・・。」

「意味わからんって顔だな。安心しろ、私もよく分からない。」

左手でその十字架をもてあそびながら、俺の顔を見て彼女は言った。

「よく分からない?」

「うん。・・・さっきみたいな奴ら世界中に出現しててな。何件か討伐したって報告来てるが、その全部が『目の前で敵が消えて後に何かが残る』って内容だ。『何か』に規則性はなくて、装飾品だったり書物だったり用途の分からないものまで様々。」

「・・・なんなんだ?」

「さあ。一応敵が残していったものはちゃんとした機関が回収しているが、調査は進まず理由は不明。結果放浪する旅人が売り払っているわけだ。」

それお前か、とは言わないでおいた。

「さて。・・・また村が消えたかぁ。めんどくさいがシイラに報告しておかなくちゃな。」

 ばさばさ、アリアが着ているマントを手繰り寄せて上下に振ると、

ゴッ。

機械が落ちてきた。・・・なんなのそれ、異次元マント?

「えーとえーと・・・どうやって使うんだこれ。」

「その赤いボタン押せばいいんじゃないか?」

「これか?」

ポチッと押す。

『アリア社員どうしたんですかまたなんか壊したんですか責任は負いませんからね!!!なにか御用ですか!!!責任は負えませんよ!?!?』

「うるさいシイラ。」

機械からすごい勢いでまくしたてる若い男の声が聞こえた。・・・苦労してるんだな。

『すみません、あなたが連絡するのはなにかやらかした時だけと思っているもので。』

「おまえ最近言葉に棘があるな?」

『自覚しろ。・・・で、なにか御用ですか?』

「あーうん。報告。また村が一個消えた。」

『・・・消したの間違いではなく?』

「ちげーよ。着いた時には住人がまるっといなくなってたんだよ。例の怪奇現象もどきで間違いないと思う。3体いたけど快勝。そんなもんかなー。」

『まともな報告でよかったです。場所は分かりますか?』

「場所?・・・ノラ、ここなんて名前の村?」

「サイード村」

「だってさ。」

『分かりました。調査隊を依頼しておきます。・・・生存者いるんですね?』

「いるよー」

『・・・ハァ、十分報告事項ですよ。先に言ってください。替わってもらえますか?』

「あいよ。」

渡された。

「・・・もしもし?」

『もしもし、ノラさん、でいいんですよね?私はシイラといいます。そこにいるトラブルメーカーを一応雇っている者です。』

「あ、オツカレサマデス。」

『・・・もう被害にあったんですね。』

「まあ。・・・というか彼女、就職してたんですか。」

『今は休暇中ということになってますけどね。で、ノラさん。』

「はい?」

『あなたは怪奇事件の被害者であり、機関の保護を受ける権利が十分にあります。しかし・・・その、あまりお勧めはいたしません。』

「え?なんでですか?」

『私の口からはとても。そこにいる彼女に聞いた方がいいでしょう。なんせ、情報を持ってきたのは彼女ですから。』

「!?」

『驚くのは無理もないと思います。私も明日は槍でも降るんじゃないかと思いましたから。でも、事実です。』

「・・・分かりました、後で聞いてみます。それで、俺はこれからどうすればいいでしょうか?」

「私の旅に同行させる。」

「は!?」

隣からアリアがとんでもないことを言いやがった。

『・・・すみません、残念ながら私も同意です。』

「え!?」

「おまえここから一人で移動する気か?取り逃がした生存者だぞ。向こうが消しにかかる可能性がある。」

『・・・そういうことです。アリア社員は性格は癖がありますが強いですし。』

「おう!ヒト一人くらいは多分何とかなるだろ!」

「おまえさっき俺の命はどうでもいいみたいなこと言ってなかったか?あと自分の身は自分で守れとも言ってたよな?」

「なんのことやら。つーわけでシイラ、じゃあな。」

ブチッ、と音がして回線が切られた。

「拒否権は?」

「それはすなわちお前の死を意味するぞ?」

ないようだ。

 

 

 

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こうして、物語は幕をあけました、とさ。

まだまだ序章。

では『私』はこの先でお待ちしております。

その時まで、ごきげんよう。

 

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The die is cast.(賽は既に投げられた)